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東京高等裁判所 昭和24年(行ナ)9号 判決

原告 青木徳次郎

被告 特許庁長官

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告は、請求の趣旨として、特許局昭和二十四年抗告審判第二十八号抗告審判請求事件につき、特許局が、昭和二十四年四月二十三日与えた審決を取消す、との判決を求めると申立て、其請求原因として主張したる要旨は、次のとおりである。

原告は、特許願明細書及その図面に示す如く、特許請求の範囲を『左右に堅立板(2)に、回転遊輪(4)、(5)又は歯輪を有する横軸(3)を架し、頭部に(易動性)永久磁石(8)を有して、外部より「エネルギー」を放射せしめ、左方にのみ倒仆する半起立旱(A)(B)(C)(D)、回転を助長したる鱗片(A′′′)(B′′′)(C′′′)(D′′′)と、内部に左方にのみ転動する硬球(A′)(B′)(C′)(D′)、(A′′)(B′′)(C′′)(D′′)(又は水銀の適量)を有し、外枠(7)を具えたる勢輪(6)に、強力なる永久磁石SN(8)、両極の内側に磁力線逆射遮止体(へ)(酸化亜鉛、酸化鉛、酸化錫其の他の金属、及び其の炭酸硝酸化合物と、一般の琺瑯剤を用いて製したるもの)を定座せしめて無力となして力の平均を破らしめ、回転障害を除き、強度を算定して上下の適当なる位置に配して、反時計方向に回転せしむべくなしたる永久磁石を使用したる永久発動機』(原告は当審に於て落字を発見したからとて前記( )内記載の「易動性」及「又は水銀の適量」を加入すると申出でた)であるとした発明について、昭和二十二年二月二十一日、特許局に特許の出願(昭和二十二年特許願第一〇二二号)をしたところ、昭和二十四年一月十七日、本願はこれを拒絶すべきものとするとの査定があり、原告はこれに対して、昭和二十四年二月二十二日、抗告審判の請求をした(昭和二十四年抗告審判第二八号)。然るに特許局は、昭和二十四年四月二十三日、本件抗告審判の請求は成立たないと審決したのである。然しながら、査定又は抗告審決について考えるに、(1)本願に使用せる永久磁石(8)が持続せるエネルギーを放射し、右方のS極は勢輪(6)のNを吸引して引上げ、左方は磁力線逆射遮止体(へ)を置きて無力となし、こゝに力の平均を破りて運動を起さしめ、且つこれを持続せしめ、又左方N極の右方に磁力線逆射遮止体ありて無力となし左方で勢輪Nを逐斥押下せしめて力の平均を破りて運動を起さしめ、これを永久磁石(8)のエネルギーによりて持続せしめあるを以て、即ち外部から勢輪N(6)に、永久磁石のエネルギーを加え持続せしめあるのであつてこれを外部からエネルギーを加えることなしに、運動を持続させること不可能なりというは不当である。(2)本特許願の明細書図面には、N極を有する勢輪(6)の上部に、適当の距離を計りて永久磁石(8)磁力線逆射遮止体(へ)を配置して、異名磁極Nの作用により平均を破りて運動を起さしめ廻転せしめあるを以て、勢輪(6)は廻転して発動機となるは当然なり。この明細書に詳記しある点を無視して廻転不可能とした判断は正気の沙汰ではない。(3)本発明は永久磁石(8)NS間に磁力線逆射遮止体(へ)を具備し勢輪(6)を反時計方向に廻転せしむべく完成されたもので、これに対し特許の要件を具えてないと断ずるは不当の極みである。

審決は一、磁力線逆射遮止体は絶対に出来ないというが、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化錫等の金属酸化物、又は硝酸炭酸化合物と、一般の琺瑯剤を用いて製造したるものは、磁力線逆射遮止の作用を有することは学理と実験によりて事実である。これを出来ないと断定を下すの不法は許されない。二、永久磁石の工業的真価を無視して、実用的優秀なる永久磁石に、更に他のエネルギーを補給せしめるのは、全く無用の長物であつて、原告の発明した永久発動機に、さようなものを使用しないのは当然である。三、審決は明細書並に図面の記載を誤認し、その説示は矛盾撞着に充ちておつて、正しい解釈を示していない。

なお本件永久発動機の原動力は、磁気力作用を根本とするもので、回転子の回転により起る風力、及び鋼球の遠心作用は回転を助成するのみのものである。

本願明細書並に図面に示すように、永久磁石(8)を細小なる撥条(8)によつて易動性となしてSにN1が回転し来るとき、永久磁石(8)が恒に微動し居りて、SとN2の磁心がいつも噛み合うこと能わざらしめ、NとN2は又永久磁石(8)が易動性なるために、互に喰い違いて、容易く逐斥して押下げ作用に移り、回転子(6)が延々継続して回転すること当然なのである。即ち、右側に存するSは一〇〇の磁力を以てN0を引上げ、Nは又一〇〇の磁力を以てN3を押下げ、SとN1はSか易動性なるがために、N1を引きつけて左方に微動して止まることなく、又NとN2はN極が易動性なるがために、左方に微動して止まることなく、回転に障害を与えないために、回転子(6)の回転が継続せられるのである。かくの如く、S一〇〇N一〇〇合計二〇〇の力によつて引上げ押下げ作用をなし、平均を破りて反時計方向に回転することは数学上一目瞭然である。尚これに、磁力線逆射遮止体(へ)を磁極SN間に定座せしめれば一層完全を得るのである。

原告の発明した永久発動機は、平均を破れば運動起るの原理より出発したるが故に、此の平均を破るために回転子(6)の外側に磁鉄を有し左方にのみ倒仆する半起立旱と回転に反向せる鱗片(風勢を利用)、内部に左方にのみ転動する硬球を有せしめたるこの綜合力は、左方にのみ上向性遠心力と下向性遠心力を発揮せしめて、右方に向うべき遠心力を全く欠如せしめて、右方と左方の平均を破らしめ、これに永久磁石を使用して更に平均を永久に破らしめたる新規の構造を有するものである。

本発動機は大四硬球、小四硬球ありて左方に大二小三球、右方に大二小一球とあらしめて、左方を強く右方を弱くならしめて平均を破らしめあるなり。尚これに回転子(6)の外側に頭部に磁鉄を有する左方にのみ倒仆する半起立旱にて、上向下向性遠心力を左方に有せしめ、左方には全く欠如せしめ、又風勢を利用したる鱗片ありて左方に吹き下げ右方に吹き上げしめる綜合作用(力は力の自乗に正比例する)こゝに活用しあり、且これに本発動機の主要動力なる永久磁石の引上押下作用を有せしめて完成したるものである。

硬球の配置について云えば回転子(6)の内部に、丁字型支旱を作り、これに(1)(2)(3)(4)の大硬球、(1)(2)(3)(4)の小硬球を配置し、大硬球を左、小硬球を右の上下となし、零点より計算して左半部と右半部の状態を見るときは左半部は大硬球二と二分の一、小硬球三計五個半を有するに、右半部は僅かに大硬球一と二分の一、小硬球一を有するに過ぎずして、著しく左方に偏在するを以て、左右の平均著しく破れて回転運動を起すに至るのであつて、この状態は連続するから永久回転して止まないのである。何となれば、左半部が左方に僅かに三度―五度目の距離を回転すれば、右半部の大硬球は、直ちに左半部に転入して、著しく平均を破ること迅速なるが為めに、たやすく左方に回転して止まないのである。この構造を原告の永久発動機に有せしめたから、永久磁石の引上げ押下げ、半起立旱の左方にのみ倒仆する上向下向性遠心力、鱗片の吹下げ吹上げ作用等の綜合力を、左方にのみ働かしめ、左右の平均を破りたるものなるを以て、永久運動の実現可能なること当然である。

被告は本訴請求を棄却するとの判決を求めると申立て、次のとおり答弁した。

原告出願の発明の要旨は、原告主張の特許請求範囲記載の通りであることは認める。即ち本願は(一)永久磁石の吸引反撥作用を利用して、回転子を回転させる手段と、(二)内部に左方のみ転動する硬球(A′)(B′)(C′)(D′)(A′′)(B′′)(C′′)(D′′)の作用を利用して、回転子を回転させる手段と、(三)永久磁石のNS両極の内側に磁力線逆射遮止体を入れて、力の平均を破らしめて回転子を永久に回転せしめんとするものである。然し(一)回転子(6)がこれに具える半起立旱(A)のN1N2と、永久磁石(8)のSNとが、夫々向い合う位置に来ると、SN1の引力とNN2の排力は最大となり釣合つて仕舞うので、回転子(6)は回転しなくなる。加うるにN1N2から出る磁力線は他にS極がないから、皆S極に入る様になり、従つて、N2かSに吸引されることにもなるから、益々回転を出来難くすることになる。(三)原告は磁力線逆射遮止体なるものを考えて磁石(8)SN極の内側に請けているが、これは何等意味をなさない。磁力線の遮蔽には鉄板が一番よいのであるが、今鉄板を磁石と鉄片との間に磁石を掩うが如くにおけば、磁力線は鉄板を通り鉄片に及ばないので、磁力線は鉄板で遮蔽されるわけであるが、鉄板を磁石SNの間に縦においても磁力線は遮断されない分路によつて幾分SNの先にある鉄片に及ぼす力が少くなるだけである。磁力線を遮断するとは右の様なことをいうのであつて、本願の様な装置では原告の主張する如き磁力線の遮断は出来ない。原告主張の磁力線逆射遮止体なるものに於て、どれ程の効果あるものか未だ不明である。(二)内部に左方にのみ転動する硬球(A′)(B′)(C′)(D′)(A′′)(B′′)(C′′)(D′′)の作用を利用する永久運動は、古くから考えられた典型的な方法であつて例えばヒスコツクス著「メカニカル、アプライアンセス、エンド、ノベリテース、オブ、コンストラクシヨン」に示されているように、或点で平衡して、永久に運動することは出来ないものである。

要するに本願の装置は磁石の磁力、硬球の運動等のそれ自身の内部における運動を利用して、運動を継続せんとするもので、何等外部からエネルギーを補給するところがないから、エネルギー恒存の法則に反するもので実施不可能のものである。

又撥条で磁石を吊つて易動性にしてあるからといつて、到底原告の考えている様な、永久運動を起すことは出来ない。即ちSはN0を引上げる作用をするかも知れないが、それ以上強い力でN1と吸引作用をする(磁石の両極間に作用する力は両極の距離の二乗に反比例する)から、SとN1が最短距離に近ずけば、最大の力で吸引し合うから初めの中は(6)が隋力によつて回転しても、だんだん此の吸引力の方が隋力の回転力に勝つて、SとN(回転子の)が向合つた処で釣合つて終に静止し、永久磁石を易動性にしても何等の効果を生じないのである。次に、原告のいう磁力無力線なるものが磁石のNSの両極間に存在し得ないことは磁石の磁力線の分布状態を調べれば直ちにわかることである。磁石の磁力線はNからSに入るのでNSの中間の点に於て無力線なる処はないわけである。更に所謂磁力線逆射遮止体として琺瑯引のバツトを用いればその中に軟鉄があるので磁力線は大部分鉄板に吸引されるから、琺瑯引を距てゝ置いた磁性材料に影響を及ぼさなくなるわけで、原告のいう様に磁石(8)のNSの処に磁力線逆射遮止体(へ)を置けば、磁力線の大部分は此の中を通り、外部に及ぼす力は非常に弱くなるから、益々原告のいうような作用はしにくゝなるのである。

要するに本願は、理論的にも実験的にも、実施不可能の永久運動を主体とするもので、到底実施できないものであるから、何等特許に値しない。本訴の論旨は何れも理由がない。(証拠省略)

三、理  由

原告が、特許を出願した発明の要旨が前示原告主張の特許請求範囲に示すとおりのものであることは、被告の争わないところである。これによれば本願の意想は、(一)永久磁石(8)と勢輪(回転子)(6)に附設する半起立旱(A)(B)(C)(D)上のNとの吸引反撥作用を利用して、勢輪(6)を回転させる手段と、(二)内部に左方にのみ転動する鋼球(A′)(B′)(C′)(D′)(A′′)(B′′)(C′′)(D′′)の作用を利用して、勢輪を回転させる手段と、(三)永久磁石(8)のNS両極の内側及び右永久磁石NS(8)と勢輪(6)に附設する半起立旱(A)(B)(C)(D)上のNとの間に磁力線逆射遮止体(へ)を入れて力の平均を破らしめる手段と、(四)勢輪(6)に設けた鱗片(A′′′)(B′′′)(C′′′)(D′′′)により勢輪(6)の回転によつて起る風力を利用して回転を助長する手段とにより、勢輪(回転子)(6)を永久に回転せしめんとするものであるということができる。しかしながら、(一)永久磁石(8)と勢輪(6)の半起立旱(A)(B)(C)(D)に設けたN(N0N1N2N3……)との吸引力及び反撥力が原告主張のように夫々引上げ作用と押下げ作用とをなし勢輪(6)の回転を継続させるというが如く働くことは、未だ証明されたということはできない。却て永久磁石(8)のNSと半起立旱(A)(B)(C)(D)のN(N0N1N2N3……)とが向き合つて異極間の距離が一番接近するとき、その吸引作用は他の位置の同極間の反撥作用より強いこととなる場合が考えられるので、此の状態が生ずれば勢輪(6)は静止して回転しないわけであると認められる。(三)而して磁力線逆射遮止体(へ)を原告主張のように装置したとしても、これまた原告主張のような作用効果を生ずることは証明されない。寧ろ概して磁石の吸引反撥作用を減少させるだけに過ぎないと為すべきである。(二)更に左方にのみ転動する鋼球の作用を利用する永久運動の不可能なることは被告主張の通り既に定説であつて原告の主張は未だ以てこれを覆えすに足る証明ありとするを得ない。

右永久磁石の吸引反撥作用を利用する手段と、左にのみ転動する鋼球を利用する手段とを併用することを考えても、右両者併用によつて永久に回転を継続すると認められる証明はない。(四)勢輪(6)の回転によつて起る風力を利用する鱗片(A′′′)(B′′′)(C′′′)(D′′′)の装置も、空気抵抗によつて勢輪(6)の回転を妨害すると解すべきで、これが風力によつて回転を助長するとは到底考えられない。

要するに、原告主張の永久発動機はその実施の可能なることについて証明ありとすることを得ないから、これを特許する限りではなく、被告の為した本件審決は相当であつて何等違法の点もない。本訴請求は到底これを認容するに値しないものである。

仍て訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条、第九十五条に則り主文の通り判決する。

(裁判官 中島登喜治 小堀保 原増司)

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